2009年8月11日火曜日

ヤン・ヘンドリック・シェーンの論文捏造事件

論文捏造 (中公新書ラクレ)
村松 秀
中央公論新社
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研究者のひよことして、論文捏造を読んだ。本書では、ドイツ出身の物理学者で、かつてベル研究所に所属していたヤン・ヘンドリック・シェーンJan Hendrik Schön)の論文捏造事件について取り上げている。この事件では、すでにSchönが筆頭著者の論文で、Nature7本、Science8本、Physical Review6本の論文が取り下げられている。2001年には、平均8日に1本のペースで論文が出版されていたという。

その事件を解明するために、インタビューを通じて、多方面から解明を試みている。アメリカ、イギリス、スイス、ドイツに渡り、Schönの論文が出版された出版社(Nature、Science編集部)、Schönの元職場(ベル研究所)、Schönの出身大学(コンスタンツ大学)、Schönの元上司の勤務先(ETH)に出向き、事件を調査している質の高い本だ。

捏造の犠牲者はたくさんいる。例えば大学院生とポスドクが犠牲者になった。有名な雑誌に出版された論文を元に、追試を行うことを要求され、出るはずもない研究結果を求められたのは、大学院生とポスドクであった。実験結果が失敗に終わったとして、指導教官から、大学院生やポスドクが責め立てられたらしい。その追試に費やされたエネルギーを考えると、捏造はみんなの時間を奪う行為で、責任は非常に重い。

さて実験結果は捏造だったとしても、Schönはたぐいまれなる「論理構築力」と「文章力」を持っていたはずだ。そうでなければ、結果を捏造しても、短期間に有名雑誌の論文のレビューアーを通り抜けることはできない。それが正しい方向に使われていれば、Schönは超一流の研究者になれたんだろうなと思って、残念な気持ちになる。

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